締め付けトルクの式を導出してみた

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この記事ではメートルねじの締め付けトルクの式を導出してみます。

式を理解しておくことで設計や不具合が発生した時の考察がしやすくなります。

締め付けトルクの式

締め付けトルクの式は締め付けトルクと軸力(=被締結部材を締め付ける力)の関係性を表しています。

メートルねじの締め付けトルク\(T\)の式は以下の2種類が知られています:

$$T=
 \begin{cases}
\frac{1}{2}F\{d_p(\tan\beta_p+1.155\mu_s)+D_v\mu_w\}\cdots(1)\\
 \\
 KFd\cdots(2)
 \end{cases}$$

それぞれの記号の意味は下記です:

\(F\):軸力

\(d_p\):ねじの有効径

\(\beta_p\):有効径でのリード角

\(\rho’\):見かけの摩擦角

\(K\):トルク係数

\(d\):ねじの呼び径

\(D_v\):摩擦トルクの等価直径

\(\mu_w\):ボルト頭部と被締結部材間の摩擦係数

\(\mu_s\):ねじ部分の摩擦係数

締め付けトルクの式の使い方

締め付けトルクの式は「あるトルクでねじを締めるとどれくらいの軸力が発生するのか」を計算できます。

たとえば、ねじ山がせん断破壊しないようにねじを締めたい場合、発生する応力がねじの降伏応力以下になるように軸力の値を設定し、それを式(1)に代入して\(T\)を計算し、求めた\(T\)でボルトを締めるという使い方があります。

ここではこの程度の記述にとどめますが、詳細には弾性域締め付けや塑性域締め付けなどの考え方をもとに軸力と締め付けトルクを設計します。詳しくは以下の参考文献を参照ください。

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式(1)の導出

以下のようにボルトにトルク\(T\)を加えて締め付けることを考えます。

このときトルク\(T\)に抵抗するトルクとしてねじ部分のトルク\(T_s\)とボルト頭部と被締結部材との間の摩擦トルク\(T_w\)が働きます:

$$T=T_s+T_w$$

\(T_s\)を発生させる水平方向の力を\(U\)とすると、\(T_s\)と\(F\)の関係は、下記です:

$$T_s=\frac{d_p}{2}U=\frac{d_p}{2}F\tan(\beta_p+\rho’)$$

\(U=F\tan(\beta_p+\rho’)\)は斜面の原理より導くことができます。

続いて\(T_w\)と\(F\)の関係は下記です:

$$T_w=\mu_wF\frac{D_v}{2}$$

以上より

$$T=\frac{1}{2}F\{d_p\tan(\beta_p+\rho’)+D_v\mu_w\}$$

となります。

(補足)等価直径\(D_v\)とは何か?

\(D_v\)とは摩擦力が働いているとみなせる直径のことになります。

摩擦力はボルトの頭の全面に働いていますが、ある線上に集中して働いているとみなすことができます。その線の直径が\(D_v\)です(下の図)。

\(D_v\)の式として以下が知られています:

$$D_v=\frac{2(d_w^3-d_h^3)}{3(d_w^2-d_h^2)}$$

ここで

\(d_w\):ボルト頭座面の直径

\(d_h\):ボルト穴径

です。

ここで以下の近似を用います:

$$\tan(\beta_p+\rho’)\approx\tan\beta_p+\tan\rho’=\tan\beta_p+\frac{\mu_s}{\cos30^{\circ}}\approx\tan\beta_p+1.155\mu_s$$

そうすると

$$T=\frac{1}{2}F\{d_p(\tan\beta_p+1.155\mu_s)+D_v\mu_w\}$$

となります。

これで式(1)が導出できました。

式(2)の導出

式(2)は式(1)を\(d\)でくくると導出できます:

$$T=\frac{1}{2}Fd\{\frac{d_p}{d}(\tan\beta_p+1.155\mu_s)+\frac{D_v}{d}\mu_w\}=KFd$$

\(K=\frac{1}{2}\{\frac{d_p}{d}(\tan\beta_p+1.155\mu_s)+\frac{D_v}{d}\mu_w\}\)と置きました。

\(K\)はおおむね0.2~0.4の値を採用することが多いようです。

式(2)はざっくりと締め付けトルクを決めたいときに便利です。

考察1.摩擦係数が小さいと軸力は大きくなる

同じ\(T\)で締め付けても\(\mu_s\)もしくは\(\mu_w\)が小さいと軸力\(F\)は大きくなります。

それは式(1)を以下のように変形するとわかります:

$$F=\frac{T}{\frac{1}{2}\{d_p(\tan\beta_p+1.155\mu_s)+D_v\mu_w\}}$$

\(\mu_s\)もしくは\(\mu_w\)が小さいと分母が小さくなって\(F\)が大きくなることがわかります。

よって締結力を上げたければ摩擦係数を小さい材質に変えるという方法が考えられます。

考察2.細目ねじは並目ねじよりも軸力が大きい

同じ\(T\)で締め付けても細目ねじは並目ねじよりも軸力が大きくなります。

これは細目ねじのリード角\(\beta_p\)が並目ねじのそれよりも小さいためです。

\(\beta_p\)が小さいと分母が小さくなって\(F\)が大きくなるとわかります。

よって締結力を上げたければ並目ねじではなく細目ねじを使うという方法が考えられます。

ただし、細目ねじには締め付けるのに並目ねじよりもたくさん回転させないといけないなどのデメリットがあるので注意が必要です。

まとめ

締め付けトルクの式を理解しておくと上記のように考察ができるようになるのでちゃんと理論的に理解しておくことをお勧めします。

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