この記事では斜面の原理について解説します。
斜面の原理はねじの締め付けトルクを導出できる重要な概念です。
斜面の原理からねじの締め付けトルクと軸力の関係式が導かれるので、機械設計に携わる人間ならば理解しておきたい式です。
この記事で斜面の原理を解説し、斜面の原理の理解を手助けできればと思います。
斜面の原理とは?
斜面の原理とは物体を斜面に沿って動かす際の物体の力学です。
角ねじの場合、斜面の原理に基づいてねじに働く力の式を導出すると以下のようになります。
$$\| \boldsymbol{U} \|=\| \boldsymbol{F} \|\tan\left(\beta+\rho\right)(ねじを締める場合)$$
$$\| \boldsymbol{U} \|=\| \boldsymbol{F} \|\tan\left(-\beta+\rho\right)(ねじを緩める場合)$$
\(\boldsymbol{U}\)はねじを回す際にねじに加える力で、\(\boldsymbol{F}\)はねじに働く軸方向の力です。(太字はベクトル、細字はスカラーです。\(\|\boldsymbol{a}\|\)はベクトル\(\boldsymbol{a}\)の大きさを表します)
\(\rho\)は摩擦角で\(\beta\)はリード角です。
三角ねじの場合は上式の\(\rho\)が\(\rho’\)になります。
斜面の原理の解説(角ねじの場合)
まず角ねじの場合について斜面の原理を解説してみます。
以下のように被締結部材に力\(\boldsymbol{U}\)を加えてねじを締め付けることを考えます。
このとき、ボルト頭部と被締結部材は接触していて被締結部材に力\(\boldsymbol{F}\)が加わっているとします。

これは物体に力\(\boldsymbol{U}\)を加えて斜面を登らせることとみなすことができます。

このときめねじにはボルトねじ部分からの垂直抗力\(\boldsymbol{N}\)、摩擦力\(\boldsymbol{M}\)が働いています。
力は釣り合っているとします。
ここで摩擦角\(\rho\)を以下のように定義します:
$$\tan\rho\equiv\frac{\| \boldsymbol{M} \|}{\| \boldsymbol{N} \|}=\mu$$
\(\mu\)はおねじとめねじの間の摩擦係数です。
また力のつり合いより以下が成り立ちます。
$$\boldsymbol{F}+\boldsymbol{U}+\boldsymbol{N}+\boldsymbol{M}=\boldsymbol{0}$$
$$\Rightarrow\boldsymbol{F}+\boldsymbol{U}=-\left(\boldsymbol{N}+\boldsymbol{M}\right)$$
これは\(\boldsymbol{F}+\boldsymbol{U}\)と\(\boldsymbol{N}+\boldsymbol{M}\)は平行(ただし向きは反対)であることを意味します(以下の図)。

\(\rho\)の定義より\(\boldsymbol{N+M}\)と\(\boldsymbol{N}\)の成す角は\(\rho\)です。
また図形の知識より\(\boldsymbol{F}\)と\(\boldsymbol{N}\)の成す角は\(\beta\)であるとわかります。
よって上の図より
$$\| \boldsymbol{U} \|=\| \boldsymbol{F} \|\tan\left(\beta+\rho\right)$$
となります。
斜面を降りる場合は\(\beta\)を\(-\beta\)にすればいいだけです。
斜面の原理の解説(三角ねじの場合)
次に三角ねじの場合について斜面の原理を解説します。
三角ねじの場合はねじ山に角度(フランク角といいます)がついています。

フランク角を\(\alpha\)、おねじからめねじに働く垂直抗力を\(\boldsymbol{N}\)、摩擦力\(\boldsymbol{M}\)が働く面での垂直抗力を\(\boldsymbol{N’}\)とすると
$$\|\boldsymbol{N’}\|=\|\boldsymbol{N}\|\cos\alpha$$
が成り立ちます。
よって物体に働く力は以下の図のようになります。

ここで\(\boldsymbol{N’}\)と\(\boldsymbol{M}\)の成す角を\(\rho’\)とすると
$$\tan\rho’\equiv\frac{\| \boldsymbol{M} \|}{\| \boldsymbol{N’} \|}=\frac{\| \boldsymbol{M} \|}{\| \boldsymbol{N} \|\cos\alpha}=\frac{\mu}{\cos\alpha}$$
となります。
これは角ねじの場合で\(\rho\)が\(\rho’\)に、\(\boldsymbol{N}\)が\(\boldsymbol{N’}\)になっただけです(以下の図)。

よって角ねじの場合と同様に
$$\| \boldsymbol{U} \|=\| \boldsymbol{F} \|\tan\left(\beta+\rho’\right)$$
となります。
(補足)
「\(\|\boldsymbol{N}\|\sin\alpha\)はどの力ともバランスしていないのでは?」と思うかもしれません。ねじは円対称なので\(\|\boldsymbol{N}\|\sin\alpha\)はそれ自身と打ち消し合います。

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