以前このブログで磁気回路法を紹介しましたが、いざ磁気回路法を使おうとすると「磁石をどう扱えばいいのかわからない」という人もいると思います。
この記事ではそんな人たち向けに磁気回路法での磁石の扱い方を解説します。
この記事を読めば磁気回路を設計する際に磁石を含んだ計算をできるようになります。
磁石を内部抵抗付きの電源と置く
結論から言うと磁気回路法で磁石を計算する方法は「磁石を内部抵抗付きの電源とする」です。
このとき電圧Vに相当するのが\(H_cl\)です。\(H_c\)は保磁力で、\(l\)は磁石の長さです。
また内部抵抗は\(\frac{l}{\mu_0 \mu_c A}\)となります。
\(\mu_0\)は真空の透磁率で\(\mu_r\)はリコイル比透磁率です。\(A\)は磁石の断面積です。
なぜ磁石は内部抵抗付きの電源といえるのか?
なぜ磁石が内部抵抗付きの電源といえるのかについて解説します。
結論から言うと、以下の図のように減磁曲線を直線で近似すると磁石を内部抵抗付きの電源と置くことが可能になります。
詳しく説明します。
上の図のように減磁曲線が直線で近似できたとします。
このとき傾きを\(\mu_r\mu_0\)、残留磁束密度を\(B_r\)、保磁力を\(H_c\)とします。
曲線が直線になっても磁場が保磁力に等しければ磁束密度は0になり、磁場が0になると磁束密度が残留磁束密度に等しいというのは変わらないので直線の式は\(B=\mu_r\mu_0(H_c-H)\)となります。
この式を以下のように変形します(\(\phi\)は磁束です):
\begin{eqnarray}
\frac{\phi}{A}&=&\mu_r\mu_0(H_c-H)\\
\frac{\phi}{\mu_r\mu_0A}&=&(H_c-H)\\
\frac{l\phi}{\mu_r\mu_0A}&=&(H_c-H)l\\
Hl&=&H_cl-\frac{\phi}{\mu_r\mu_0A}l\tag{1}\\
\end{eqnarray}
式(1)に注目してください。
左辺は(磁石の磁場)×(長さ)なので磁石の起磁力です。
一方、右辺第1項は磁場×長さなので起磁力です。
第2項は(長さ)×(磁束)/(透磁率)×(面積)なので磁気抵抗による起磁力降下と
みなせます。
つまり
(磁石の起磁力)=(保磁力による起磁力)-(内部抵抗による起磁力降下)
ということです。
これで磁石をモデル化できました。
あとは電気回路と同じく回路方程式を作って解けばいいだけです。
リコイル比透磁率とは
減磁曲線の傾きを\(\mu_r\mu_0\)と置き、\(\mu_r\)をリコイル比透磁率と呼ぶと書きましたが、これが何なのか解説します。
リコイル比透磁率は磁石の動作点が変わるときにたどる直線(リコイル曲線)の傾きを真空の透磁率で割ったものです(以下の図)。
リコイル曲線は曲線といいながらもほぼ直線です。
このことから磁気回路の設計ではリコイル曲線を(リコイル比透磁率)×(真空の透磁率)を傾きとする直線とみなすことが多いです。
上で行ってきた「減磁曲線を直線で近似する」というのは、「磁石の動作点はリコイル曲線を
たどって変化するとみなす」ということなのです。
まとめ
磁石を内部抵抗付きの電源とみなすのは磁気回路法では頻繁に行われる近似方法です。
こうすることで計算ができるようになり、議論もしやすくなります。
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